震災後初の講演会。春。小さな1歩。


 
東京問屋連盟という組合がある。
http://www.e-tonya.or.jp/
老舗問屋が並ぶ日本最大の問屋街馬喰町、その真ん中にある。
ここで毎年3月、各問屋で採用された新入社員を集めた研修会が
4日間にわたって開催される。
その研修会の講演の取りを務めようになってから、もう11年になる。
感謝。
  
そしてこの講演が、
年間の僕の仕事のうち、
芝居の本番などよりも実ははるかに緊張する。
なぜだろう。
理由はともかく、緊張するがゆえに、
毎年収穫も多く、うまくいったときの達成感は大きい。
  
そして今年は、先日の3月25日に行ってきた。
今回は、特別なものになった。
他でもない、震災後だからだ。
  
新入社員、多数は高校を卒業したばかりの18歳。
女子が多い。
その若者たちの震災に対する真摯な姿勢に心打たれた。
すでに埼玉のボランティアにも参加した子も数人いた。 
  
講演では、今年はとくに次のことを話したかった。
「今ここからの1歩を踏み出す勇気」
これは、僕自身が被災者の方々から今回強く教えられていることだ。
 
★★★★★★★
  
津波に流され全壊した我が家の跡地で被災者の方は、
「ここから始めるしかないですよ。少しずつ、できることから。」
重々しい口調ではなく、誤解を恐れず言えば、
あっけらかんとしたトーンだ。
すごい、とつくづく思う。
  
毎朝、新聞を読むのが、つらい。
被災した方々の個々の体験が連日伝えられる。
たとえば、
 
小学生の息子を津波から守るためにその子を高所に上げた直後、
そのお父さんは津波にのまれた。
のまれる瞬間、息子に向かって笑顔で手を振った。
そのことを当の小学生の息子が語る。
  
耐えられない。
芝居じゃない、現実だ。
  
不謹慎と叱られるが、
今回の震災でよかったと思うことが、一つある。 
 
日本人で、本当によかった。 
 
日本人は、「恥」を知っている。
だから、真実「潔い」。
「恥」と「潔さ」、
これは日本人の最大の誇りだ。

常々そう思っていたが、
こんなにも連日心に深くつらく実感させられるとは。
そしてもう一つ、日本人の誇りがある。
「滅私」だ。
「献身」だ。
自己防衛本能や損得勘定は、危険を回避する生きるための本能。
が、日本人は、その本能をいとも簡単に制御する。
物事を俯瞰でみる。
 
「和」
 
日本人に生まれて、本当によかった。
 
★★★★★★★
 
講演の冒頭、会場にいた全員の一致で実施したことがある。
会場の蛍光灯の消灯。
外は快晴、ブラインドを全開し自然光を入れた。
少しだけ、ほんの少しだけ、節電できた。
全員で、小さな1歩を踏み出せた。
節電量はわずかだが、
全員で協力できたことは大きい、と思った。
窓からさしこむ陽ざしは、春らしく暖かだった。