肉は切れないよ。〜荒井真鈴考〜

先日、「ヴェニスの商人」出演者最年少20歳の荒井真鈴ちゃんのご両親にお会いした。
きっととてもご心配だったんですね。
でもでも、お会いして僕の方がびっくりした。
   
お父さんは、東大法学部卒で同大学院まで進んだ方。なおかつ、小説家でシンガーソングライターなのでした。
お母さんは、6ヶ国の血が流れる外国人。とてもおおらかで美人。
なるほどなぁ、まりんちゃんが普通の若い子とはちょっと違って魅力的なのは、こういうことかぁ。
   
で、高円寺の喫茶店で3時間近くもお話した。盛り上がった。
そのなかでお父さんが僕にこんな依頼を。まりんちゃん専用のチラシをつくって大いに宣伝したい、そのチラシにぜひ僕のコメントを、というもの。快諾。翌日送ったものが以下のコメント。
  
これを機に、出演者全員の〜キャスト考〜を書こうかなぁ。
連載お楽しみに。
 
ちなみにまりんちゃんには今、ジェシカとテューバルを本番でやってもらいたいと考えてます。
リハーサルではもちろん、いろんな役もやってもらいたい。

肉はきれないよ。 〜荒井真鈴考〜
アカデミック・シェイクスピア・カンパニー(ASC)代表
ヴェニスの商人」演出・出演  彩乃木崇之
 
「あらいまりんです」
「まりん? 本名なの?」
「はい」
「素敵な名前だね」
 
初めて彼女に会ったとき、こんな会話から始まった。
かわいいなぁ。若いなぁ。眩しい。
それに、彼女は聡明だ。僕は出会って数分後にすぐそう感じた。
さらに数分後、真剣に、だけどどことなく不思議なまなざしで僕の話に耳を傾けている彼女に、僕は思わずこんなことを言ってしまった。
「君は大人を達観して観察するようなクセがあるね」
急に20歳の女の子らしいあどけない表情に戻った。恥ずかしそうだ。
(ところで「達観して観察」なんて日本語があるのかな? ま、いいや)
 
シャイロックの娘ジェシカ、二つの大きな価値観にまっぷたつに引き裂かれる役。言ってみれば、『やっぱり肉は切れないよ。』と真実悩み苦しむヒロイン。
そう、「ヴェニスの商人」の本当のヒロインはジェシカだ、と実はひそかに思っている。作品の大きな要、キーパーソン。
可愛いだけでは務まらない。暗い子でもダメだ。ずっと探していた。
 
「まりんちゃんに、ジェシカ役をやってもらいたくて」
「はい、ぜひお願いします。頑張ります。ありがとうございます!」
 
演出成功の80%はキャスティングで決まる、とよく言われる。
昨年の12月、クリスマスを前にしたその日はとても気持ちのいい夜だった。
 
                                (あやのぎたかゆき)