若さの凄さ

 
昨年12月から昨日まで計8回にわたって個人指導をしていた。1日4時間。この春大学の演劇科を受験する郡山の大嶋さん。もちろん現役。毎回郡山から日帰りで通ってきた。結構根性あり。
 
初めて会ったとき、とてもレスポンスの早い子だと思った。頭の回転がとても早い。いいな。たぶん、どこでも合格するんじゃないか。
が、レッスンを重ねるうち、彼女の弱点も見えてきた。言ってみれば、「長女の優等生」なのだ。レスポンスは良くどんどんステップアップしていくが、どうも真面目さだけが前面に出てきて意外性がない。
最終レッスン日の昨日、そのウィークポイントが見事に露呈してしまった。自由課題の歌をみてくれと彼女。彼女は地元の高校で、全国優勝するほどの合唱部に所属していた。歌はまさに彼女の本領を発揮できる課題。
 
なのにこれが良くない。ちっともこちらに届かない。どうやら音程のことばかり気にして、なぜその歌を歌いたいのか、なにを伝えたいのか、そんなことに意識がまったくいかない様だ。あの手この手で彼女の感性の起動に努めるが、2日後に迫る本命の日大芸術学部受験のプレッシャーからか、または今日でレッスンが最後なのにこのまま終わってしまうという焦りからか、よくなるどころか、彼女の表情は10歳も年をとったかのようにとてもかげってきた。もう半泣きだ。二人とも時計ばかり気にし始める。残り時間40分になった。ちょっと休憩。彼女は必死でピアノをたたき、苦手部分を繰り返していた。
 
僕もとても焦っていた、実は。
これじゃ、僕は指導者としてまったく失格なのではないか。受験直前の17歳少女の自信や誇りを失わせた状態で、受験会場に向かわせてしまうことになる。ほとんど詐欺だ、犯罪だ。
 
いちかばちかのカンフル剤を使った。
このカンフル剤、適量や用法を少しでも間違うと、まったくの逆効果。もし失敗した場合、もう善後策を講じる時間は圧倒的にない。が効けば、効果はテキメン。それにもうほかに手はない。
 
成功した。
大成功だった。
彼女は歌ってくれた。さっきまでまったくうまくいかなかった出だしの部分、それにどうしても音がずれる転調部分、などなどまったく問題なかった。それだけではない。
感動的だった。
過去にオペラを何度か演出した。大げさに聞こえるかもしれないが、歌でこれほど感動したのは初めてだった。ちょっと落涙(もちろん隠した)。
彼女も大きな手ごたえを感じていたようだ。そうなればもう僕の言葉なんかいらない。
 
ま、たぶん、彼女は合格するでしょう。
若いときって、ほんの数分で生まれ変わったような飛躍をする瞬間がある(かくいう僕もちょっとだけ覚えはある)。年取りなまりがちな感性が突然それに遭遇すると、本当にびっくりする。驚異。感動。
 
若さって凄いな。
負けないぞ。
大嶋くん、ありがとう!