「そこ、命がけの台詞!」 コア(核)とソウル(魂) “ニューフィクション”の効用3

“あやのぎ塾”のレッスン、先日は日野がまた新たな成果をみせてくれた。
嬉しい。
ここ2回のレッスンではなんだかトンチンカンで、日野は自分自身にいらだっていた。
いつもならしつこくフォローするところをあえて2週間ほど「ほっといて」みた。
おせっかいな僕にとっても、いいトレーニングとなった。
(日野、ごめんよ)
 
ほっとく。
“ニューフィクション”のひとつの心得。
 
先日のレッスン、朝から日野は普段とちがってた。
シンとしていたが、元気がないわけではない。自分の殻にこもっている風でもない。
自然体だった。
基礎トレーニングの後、キャスティングオーディションをかねた「ヴェニスの商人」を使った課題の発表。
午前中に終了するはずが、正午を回ったので日野の番は午後に。
すでにいつでもやれるよう準備していたので午後にしてもいいか本人に聞いたが、
「はい、どちらでもかまいません」と、素直な返答。
僕、心の中で「へ〜、いい感じだな。」
つまり、気負ってない。
発表がちょっと楽しみになった。
 
昼休みの間も何かやるでもなく、彼女はフワ〜と稽古場にいた。僕の雑談にも普通に応えてくれる。
日野がこういう状態のときは、いい。
大きな成果をみせた1ヶ月半ほど前のレッスンのときもそうだった。
http://d.hatena.ne.jp/ayanogi/20080916
 
いよいよ発表、よかった。
面白かった。たくさんの工夫と発見があり、観ている僕の創造力をたくさんかき立ててくれた。
本人もどうやら自信はあったらしい。
 
本人が選んで発表したシーンは、以前にもやった場面。そのときは、的外れな解釈で結果凡庸な演技。
なぜ変な解釈にいたったかを、その後のレッスンでブレインストーミングしながらみんなで検証した。
原因を突き止めた。
原因は、そのシーンにおける役のコア(核)の部分をつかみ損ねていたこと。
最初は無意識のうちに本人がその核を感じ取っていたにも関わらずだ。
日野、おおいに悔しがる。
が、心配はない。無意識のうちにちゃんとそれは感じていたのだから。
 
核さえ感じ取り、それを強く意識上に上らせることさえできれば、想像力も創造力も無限に広がっていく。
先日のレッスンで日野は、演じたシーン全体でそのことを証明してみせた。
 
にもかかわらず、最も重要な箇所をスルーパスしてしまった。
「そこ、命がけ!」という台詞だ。
そのシーンはすべて、そこに集約されている、それなくしてはその役ではないという言葉。
 
惜しい!!!
実に、惜しい。
 
なぜコア中のコアを落としてしまうのか。
その検証にすぐ入った。
原因はただひとつ。
新しい関係を結び続けることをどこかでやめてしまったからだ。
ではその中断を引き起こすものはなに?
「説明」だ。
そのシーンでその役がどんな状況におかれているか、それはわりとすぐ誰にでも分かる。
たとえば、その人物は「怒っている」という解釈が導き出されるとする。
で次にすぐやってしまうミスは、どう興味深く「怒っている」状態を演じることができるかを考えはじめる。
頭をひねる。
これが、「説明」。
 
大切なことは、「怒っている」状態を説明することではなく、
なぜ怒っているのか、その動機を見つけ出すこと。
コア(核)とは、すなわち動機といってもいい。
その動機が、人間の本質の部分に深く関わっていればいるほど、観客には魅力的に映る。
 
日野の成果の中の失敗は、
核をつかんでいながら、核の核となるコアの中心に向かって集約させることを忘れてしまったことだ。
それを引き起こしたのは、自分のアイデアの具体的表現にだけ意識がいってしまったから。
なぜそのアイデアが素敵なのかを忘れた。コアを忘れた。
 
だから、惜しい!
イデアの具体的表現にだけ意識がいってしまうのは、過去にとらわれてしまうこと。
イデアを思いついた時点で時間をとめてしまい、創造者たる自分との新しい関係の構築をやめてしまう。
それを避けるには、どんなにすばらしいアイデアでもすぐに「飽きてしまえ」ればいい。
そうすれば、すぐに何かを思いつく、たぶんもっといいアイデアを。
 
“ニューフィクション”メソッドは、
イデアを具現化しながら、コアのコアを必ず意識し続けて、同時にもっといいアイデアを発想する。
コアを見失わず、コアのコアまで突き進む心構え。
そうすれば、「ほっといて」も演技者の感性は刺激され、新しい関係はどんどん生まれ、
泉のように次から次に新しい表現のアイデアは湧いてくる。演じずにはいられなくなる。
結果、楽しい。
 
核を見失わない方法。
核の核まで、どこまでも突き進んでいく手段。
その探求が、“ニューフィクション”の本質のひとつだ。
 
日野も自身のブログにて、先日のレッスンの成果を長短合わせて自己分析してます。
よければのぞいてみてやってください。
http://d.hatena.ne.jp/satokohino/20081027
今日は、日野の誕生日。
京アニメーター学院での講師の仕事も充実しているようで、いい感じでのハッピーバースディだ。
よかった、よかった。
おめでとう。
 
あれ、タイトルにある「ソウル(魂)」について書き忘れました。
次回にて。