突き抜ける勇気。〜鳥取「ロミオとジュリエット」〜

子どもたちや若い世代に対して、先を読む力が不足している、とはよく耳にすることだ。子育て中にも稽古中でもそのことを僕もよく考えさせられる。
 
いま塾生の秋山と影山が昨年の「ハムレット」に引き続き、この夏鳥取の高校生とのコラボレーション企画第2弾「ロミオとジュリエット」を準備している。準備の中で僕がまずアドバイスしているのが、その集団の改名の提案だ。昨年の集団名は「劇団イチブンノイチ」。どういう意味だと聞くと「等身大」という答えが返ってきた。うん、言わんとしていることはわかる気がする。で、等身大の意味は?ときくと、いまの高校生たちの可能性を表しているというようなことらしい。うん、ふたたび言わんとしていることはわかる、だけど・・・。
 
そこで僕からの提案。集団を組織して率いていくためには、何よりも理念が大切。理念とは、メンバー全員で目指すべき頂上だ。そこにどう向かうか、そのことをリーダーははっきり見据え、さらにメンバーに伝える努力を惜しまないことがとても大切だと。集団名は、その理念の象徴として捉えてみてはどうか、と。そこで秋山と影山は徹夜で思考することになった。次の日の秋山からの返事メールが以下。

『まず山盛りの問題の中、自分のしたい事、劇団としての理念・これからの事を一晩考えました。やはりこの企画の焦点は、高校生を始めとする若い世代にあります。自分の人生をより考える事、自分そして人生はなんて素敵なものなんだと演劇を通して考えて伝えたいです。演劇を見るだけでなく、実際に板の上に立ち作品と向き合う事で、より強く深く考える事が出来るのではと思います。
自分を大切にしない若者、また考える事、考え方がまだ分からないという若者は多いと思いますし、自分を含めて友達らにもそう感じていました。
今回の企画は、これからを変える中心人物になりえる若い世代の意識を、演劇を通して改革し、直接活性化させる起爆剤的な活動としていきたいと思います。そのための高校生とのコラボです。伝えて、まず彼らの中に若く有り余る「生きる喜びパワー」を漲らせて、地域、果ては日本を変えるところまでもっていければ最上の成果と思います。そして現段階の理念は「素敵な人生のために、より向き合いより考える事を、伝える」にあります。
そこから、劇団名を「wonderlife Shakespeare family」はどうだ!と話しています。(企画の題材としてはシェイクスピアが今最も合っていると思って、同志をドンドン増やしたいとの意味でfamilyです)
…とは書きましたが、、、まだ自分の言葉と感覚がマッチしません。悔しいです(語呂が微妙な…)まだまだ(仮)です。考えさせて下さい。今日中には繋げ、出します。
極端に言えば最終的に、日本中の若者に伝え変えたいわけで、実際の目的もそこに置きます。かなり飛んでしまいますが、最終的にそこに繋げる活動にしたいです。最終的に日本を変える事になりますから、まず故郷であり、問題山盛りの鳥取を活性化させる事を第一のステップとして、かつ今の最大目標として鳥取で公演をする意味にします。やはり、先ずは鳥取の若者を、鳥取という地域を変えたいんです。「鳥取を」から「鳥取から」に変えての再スタートです。
そのために、まず今の「自分で良いのか」の戸惑う負け犬ではなく、「まず自分が俳優でなければ」に切り替えます。(まず自分がプロとして演劇をしていくモチベーションあっての活動です。)まとまりきらず、すみません。
少し見えた気でいますが、繰り返しばかりで思い切り外しているかもしれません。深く掘り下げられないのが今の大きな課題です。理念、指針、まだまだ考えます。先送りしないよう、また今晩、劇団名等メールします。よろしくお願いします。 秋山祐司』

「wonderlife Shakespeare family」、「ワンダーライフ シェイクスピア ファミリー」。秋山たちには悪いが笑ってしまった。が、理念はいい、抜群にいい。次の朝またメールが来る。

『おはようございます。劇団名、指針、制作など寝ずにミーティングを続け、劇団名を練っています。
「劇団鶯」
「劇団桜バード」

春を一番に告げるのはうぐいす、桜。日本中に新しい季節を告げるという意味ですが…広がりが。。方向はこうなのですが、言葉が足らないのは本当に大課題です。。
理念、指針は、親御さん達や高校生、同級生達に説明するため、文章に起こしたいと思います。しかし言葉が足らず、「お前何様だ!?」的な文章になっていますが、やるからにはドーンと張ってみたいと思います。 秋山祐司』

再び大笑いをしてしまった。鶯やバードは、鳥取とかけた名前にしたいという気持ちの表れなのはよくわかるが、面白すぎる。そこで僕からの助言。迷ったときはとにかく原点回帰、シンプルにシンプルに。いくつかの例を挙げて参考材料にしてもらおうと送った僕からのメールが以下。

『秋山へ。もうシンプルに単純に、若さの勢いを大切にして、理念にまっすぐ突き進んでいくということも含めて、
「劇団Straight!」(劇団ストレート!)とか「Straight Company」(SC)とか「TOTTORI Straight Company」(TSC)とか「鳥取 Straight Company」(鳥SC)とか。そういうのはどうだ!?ちなみに、ショッピングセンターも「SC」か?(笑)視点を変えることが大切。 彩乃木崇之

ASCの理念「Direct, Straight, for the Dynamism.」(まっすぐに、ただひたすらまっすぐに。)の中の「Straight」のオンパレードだ。わざとそうしてみた。つまり理想の状態そのものではなく、その「行き方・生き方」への発想の転換を促したかった。そして本日朝また秋山から。

『おはようございます。新劇団名を決しました。理念に向かってまっすぐ、まず鳥取から発信すると言う意味で、
鳥取 Straight Company」(略称・鳥SC)鳥取県中部にTCB(東伯ケーブルテレビ)というローカルテレビがあるのと、「鳥」という漢字の飛翔イメージを頭に置こうと思います。また、SはシェイクスピアのS、という事も公言していきます。 秋山祐司』

なんだよ言われたとおりかよ?!さっき返信を打った。

『秋山へ おめでとう! って、なんだいいなりかよ?! つまんねえな。それに「鳥取県中部にTCB(東伯ケーブルテレビ)というローカルテレビがあるのと」って、どんな関係があるんだよ?何もリンクしてないじゃん?!「S」はシェイクスピアとかけるのはいいけどさ。それにな、「自分の目標でもあるまっすぐ「Straight」と、ASCのSCをいただき、〇〇〇SCまで決めました。」って昨夜のメールで言ってたけど、のれんわけは金がかかんだぞ(笑)。それなら君たちがはじめに考えた「wonderlife Shakespeare family」のほうが、なんだか能天気で理念もあって面白い。 
今回のネーミングの経緯はマヤ(鈴木麻矢)にも話してる。毎回その話題でうちの家庭には笑いがたえません。ありがとう。で、マヤからの提案、「wonderlife」を単純に「Wonderful」にして
「Wonderful Straight BIRD」
「まっすぐ理念に向かって飛翔するすばらしき鳥たち」。

というのはどう?、と言ってるよ。どうだ?勢いがあっていいじゃないか?! それに、爽やかで明るい感じがするし。能天気なのもいい。君たちの発想・アイデアも生きている感がある。(英語は単数形のほうが音にしたときわかりやすい。日本語で説明するときは複数形のほうがいいね。一人一人がそのすばらしき鳥で、それが集まっている僕らのカンパニー、ってか。)略称は「WSB」、「WHO」(世界保健機関)とかみたいでなんだか全世界を感じさせるではないか?!(ほんとか?)なんならこのさい、「Wonderful サンダーバード!」でもいいぞ。さらに勢いが増す。
また思いついた。もうこうなったら「Wonderful 」も取っちゃって、単純に
「Straight BIRD」
「まっすぐ飛翔する鳥」

実にシンプルで勢いあり。電話とかで名乗るときも聞き返される恐れもない。英単語が3個つながると瞬時に覚えてもらえないから。(略称は「SB」、「WSB」より言いやすい。食品会社と間違われる可能性はあるが。)
とまたマヤが横から提案してきた。じゃもうこの際、「Wonderful Spring UGUISU」っていうのはどう? とのこと。「日本中に春を告げるすばらしき鶯たち」。君らの理念にぴったりだ。お礼ならいいよ、とマヤが言ってる。
追伸:最後の「Wonderful Spring UGUISU」の「UGUISU」は、「KIMONO」と外国人が発音するときのイントネーションのニュアンスで。 彩乃木崇之

さてさてどんな名前に決まるのか。とっても楽しみだ。
ちょっと待て、今日の本題と少々脱線してる。長くなった。今回の集団の命名の件で感じたことは、稽古中での若者たちの発言からもよく感じていることだ。発想の基準が、名詞的・形容詞的・静的・現状報告的な気がするのは僕だけか。つまり現時点での自分の頭にあることをそのまま表出することにエネルギーをかけている気がしてならない。いま自分は何を持っているか、何を考えているか、単にそれだけを伝えようとしていて、だから次にどうするとはあまり考えていないようだ。彼らに必要なのは、いま持っていないもののはず、だからこそ「必要」なのだ。自分たちは、いったい何を欲しているのか、いまはなくて今後絶対必要なものとはなんだ、そのような次なる展開が最大の関心事になっていない。いま自分はこれだけもっていると提示することで評価を得ようとしているのか。もしそうなら、おそらく自己肯定感の不足だと推測する。
自己肯定感とは、誇りだ。誇りは、夢に向かって突き進むときにこそ生まれてくるものだろう。つまりは夢が持ちづらい、あるいは夢があってもその実現に期待できない、と若者たちは考えがちなのか。とすれば、それは大いに大人の責任だ。
 
先を読む能力とは、夢を実現するモチベーション(動機付け)だと思う。それが現状を突き抜ける勇気となるのだ。
 
「イチブンノイチ」という現時点での等身大。また、「wonderlife Shakespeare family」「鶯」「桜バード」という未来の理想の状態。どちらもよくわかる。わかるが静止している感じがする。夢とは、動的なものだ。理念とは、理想に向かって突き進んでいくエネルギッシュな躍動感あふれるものでありたい。夢を感じたい。秋山たちがとことん熟考してそんなネーミングを考え出したとき、秋山たちの熱き思いはきっと高校生たちに伝わるだろう。少なくとも彼らのその夢は理念の実現に一歩近づくはずだ。