サマーキャンプレポート。

この夏の“ニューフィクション”メソッド・サマーキャンプに参加くださったBENさんという一般の方からそのご感想メールをいただきました。僕と同世代の方です。以下は僕からの返信。ご本人の承諾を得てアップします。実際のキャンプの模様、少しでも感じてもらえたら嬉しいです。(囲み部分はBENさんからのメールです)

彩乃木崇之です。
お元気になられたようでよかったです。
 
サマーキャンプでは、本当にお世話になりました。
BENさんがどのように感じられたかとても気になっておりましたが、メールを拝読し少し安心いたしました。ありがとうございました。
失礼な発言もあったかと思います。何卒ご容赦ください。
ご自宅へのお誘い、嬉しいです。ぜひ一度お邪魔したいです。楽しみにしております。

【「意思」「行動」そこから生まれる感情。
確かに自然です。
でも、台本や本というある意味タイムマシンを手に入れている私たちがそれを完全に手放すのではなく、でも自然にというのは難しい事ですね。
そしてそれが出来るか否かが役者たらしめるかどうかなのかもしれませんね。】

「タイムマシン」とは、ステキな表現ですね。
そうなんです、そのタイムマシンに乗ってその作品世界に旅することはとても重要なのですが、その感動だけではすぐにまた日常生活のマンネリに埋没してしまいます。海外旅行と同じですね。
どのようにいま僕たちが暮らす生活を変革していけるか、観客の日常生活に少しでもよりよい変化をもたらすことができれば、演劇人として冥利につきます。

【いずれにしてもどれだけ分析出来てるか?
それは何を基準に出来ているのか?
その考えにおいての行動は?
これが出来てれば例え彩乃木さんと違う捉え方だったとしても、それはそれで有りなんだろうなと思いました。】

まさにその通りです。
そうなんです、指導者や演出家と違う捉え方を俳優がしていてもなんら問題はないんです。というより、そっちのほうがはるかにいい。感性がぶつかりあって生体化学反応のようなことが起こって、そこで初めてそのカンパニーだけのオリジナル作品となっていくのだと思っています。“ニューフィクション”メソッドの目指す本質もそんなところにあります。

【そういう意味では皆さん彩乃木さんのでかいオーラに押されて、作品そのものに向かうより彩乃木さんが持ってる答えに、自分が言うことややる事が合ってるかどうか、そのことばかりに気持ちが行ってた様な気がしたのはちょっと残念だったかもしれません。】

その通りです、僕自身そういうことになりがちなのがとても残念です。そして、落ち込みます。この点が、僕の大きな課題です。指導する者として、きっと僕の伝え方に問題があるのだと思ってます。
とにかく僕はせっかちでいけません。なので、彼らに必要な時間を僕がつくっていないのだと思います。
 
きっと僕だって若い頃は時間がかかっていたはずなのに、そのことを忘れている。実際、自分の本当の子供に対して何かを注意するときも、同じミスをしてしまいます。
全部をいう必要なないんですね、たぶん。相手の注意を喚起するだけでいいのにそれ以上を発言してしまい、結果高圧的ないい方に陥ってしまう。答えは彼らが見つけてくれるし、その答えは人の数ほどあるはずで、そのほうが素敵。彼らを本当の意味で信じていないのでは、と猛省至極。
短気は、本当に損気ですね。伝わらなければ意味がない。なのに、言うことだけに集中してしまう。相手からの返りをおろそかにしてる。
 
鳥取ハムレット」の稽古の陣中見舞いのときは、そのことがうまくいきました。たぶん、演出という責任あるポジションではなかったため、具体的な時間の制約を感じなくてすんだからです。
高校生たちがどこまで成長してくれるか、とくに彼らの意識がどこまで高まってくれるか、それが僕の大きな仕事でした。
作品としての成果を問うという責務に縛られなかった。そのことが彼らのペースをいつも受信できて、彼らの欲していることを感知することができた。僕はそのことにさえ注意していればよかった。結果、とても伝わりコミュニケーションはすこぶる良好でした。モチベーションはどんどん上がり、彼らは自身の力でみるみる変化していってくれました。
嬉しかったです。
そこがキモですね。
そんな反省から、僕自身の勉強の意味からも、ブログにも書きましたが「ムダ話の会。」を始めたというわけです。

【 昨夜BSでリチャード三世やってましたね。
相変わらずのテンポの良さと間のいい笑い。
場面展開の分かりやすさと複数の役をやってるのにも関わらずハッキリと分かる所。
黒子にする事で出てる人物を際立たせ、また人数をさらに多数に見せる。
ちょっとASCとも通じるところがありますね。
いい作品だなぁと思いました。】

ありがとうございます。
嬉しいです。
ASCも“子供のためのシェイクスピアカンパニー”も、育ちは一緒です。ともにグローブ座カンパニーで、海外の優秀な演出家たちの洗礼を5年間も受けました。その意味で、考え方はどこか共通しているのだと思います。
ASCではさらに、作品のより深部まで進みその核心(コア)を鷲づかみにして、僕らが生きている現代という地表にマグマのように勢いよく噴出させていきたいと考えてます。
“ニューフィクション”メソッドで創り上げた先の「ヴェニスの商人」の成功で、そのことをあらためて強く確信しました。迷いがなくなった感じです(ちょっと大げさかな)。

【彩乃木さん、ああいった劇場では発声の仕方変えられてるんですか?
何回かお聞きした感じと違ってましたので。】

発声方法を変えているというか、息の量を変えてます。基本的な共鳴のさせ方は、劇場の大小で変えてはいないつもりです。
ただその空間をどう捉えていくか、という感覚的なものはずいぶんちがいます。
大切なことは、その空間にちゃんと存在するということだと思ってます。自分の中での感覚の違いが、声の変化に現れているのかもしれませんね。
発声は奥が深いです。上京して本格的にお芝居の訓練を始めてから30年目になりますが、それでもまだまだ発見することが多いです。若い頃からもっとちゃんとやっておけばよかった(苦笑)。
 
僕の方こそ長くなってしまいました。すみません・・・。
今後ともよろしくお願いいたします。
次回作も新たな試みに挑戦するつもりです。
どうぞご期待ください!
 
インフルエンザが猛威ですね。
お身体、くれぐれもご自愛なさってください。
 
彩乃木崇之