「不届千萬忠臣蔵」の魅力。

以下も、過日のブログと同様に、
僕が演じる清右衛門、その妻役を演じてくださっている女優さんから
いただいたメールに対してお返事したものの一部です。
今回の「不届千萬忠臣蔵」の魅力についても述べているので、
以下に掲載します。
 
  
**さんは、本当に熱心に台本を読んでいると思います。解釈においては、まったく間違ってないと思います。それどころか、**さんの解釈を読んでいると、僕も清右衛門をより深く考察できて、とても感謝しています。
 
清右衛門とお吉の夫婦は、理想的です。
伝統的な日本人の美徳はきちんと持っていて、なおそのうえで、互いの価値観と人格をきちんと認め合っている。お互いに全人的に相手を受け入れている夫婦のような気がします。きっと前世は、兄妹か双子じゃなかっただろうかなんて、僕は深読みしてしまいます(笑)。
だからこそお吉は、自分のために、まだ乳飲み子の大二郎と自分のために、夫が何かを話してくれないことに、とても寂しさを感じるのではないでしょうか。そしてお吉のすごいところは、寂しさを感じているだけにとどまらず、そのことをきちんと夫に告げ、夫と必ず向き合おうとするところだと思う。とても強い女性だ。
 
清右衛門もお吉も、互いの伴侶のみならず、真っ直ぐに人間たちと向き合う。
真っ直ぐに向き合うがゆえに、悲劇が訪れる。
  
そして、この劇中、愚かではあるけれど真っ直ぐに人生を考えようとするカップルがもう一組登場しますね。
与兵衛と千尋だ。
その真っ直ぐさを理解するからこそ、謝って与兵衛に妻を殺されても清右衛門は与兵衛の命を奪わず、千尋に対して「この男と、生涯ともに生きてみよ。」というのかもしれない。
清右衛門と与兵衛は父と息子の関係だと、僕ははじめて台本を読んだときそう感じたけど、お吉と与兵衛もまさに母と息子だね。それゆえに殺されてしまうなんて、あまりに現代的な悲劇だ。それを書いた大和屋さんは、凄い。お吉が与兵衛にビンタをはる箇所を2箇所僕がお願いしたけど、思いっきりはってくださいな(笑)
 
清右衛門夫妻と与兵衛たち。
この劇中、あと2組のカップルが死によって別れを余儀なくされている。
安兵衛夫妻、平左衛門とお初だ。
このカップルには、**さんもおっしゃるように救いがある。
しかし、清右衛門夫妻と与兵衛たちの悲劇には、救いがない。
死によって引き裂かれるという同じ悲劇なのに、この対比はなんだろう。
これこそが、この「不届千萬忠臣蔵」の大きな魅力のように僕は感じています。
 
でももっと大きな視点で見ると、真っ直ぐに生きているのは清右衛門夫妻や与兵衛たちのみならず、登場人物たちはみんな、それぞれの立場で、懸命に真っ直ぐ生きようとしている。清右衛門夫妻や与兵衛たちは、その立場を超えてまで、真っ直ぐに生きようとしている。それだけの違いかもしれない。
 
人が真っ直ぐに生きる。
そのエネルギーこそが、演劇の本当の魅力であり、今回の「不届千萬忠臣蔵」の核心かもしれない。
 
今気が付いたけれど、「真っ直ぐ」という言葉に含まれる漢字は、「真実」の「真」と、「素直」の「直」だ。
真実素直に生きる。
僕もそうありたいものです。
素直が、一番!