マクベスが最後までやめない訳。

 
なぜマクベスは、最後の最後までやめないのだろうか。
 
魔女たちに予言され、夫人とそれを信じ、王位に登りつめ、さらにまた魔女と魔物たちの予言に支えられ、殺戮を繰り返す。
不思議なのは、魔物たちの予言「バーナムの森がダンシネーンの城に向かってこない限り、マクベスは滅びない」「女から産まれた者にマクベスを倒す力はない」が、夫人が狂気のはて死んでしまった後のマクベスを支える唯一の言葉だったが、その二つの予言すらも自分を翻弄するまやかしだったことを知ったにもかかわらず、マクベスは決して絶望しない。果敢に相手に戦いを挑む。
「誰が降参などするか、オレは最後まで戦うぞ。かかってこい、マクダフ!」
すごいな、なぜ?
以前マクベス役を演じたとき、その瞬間が一番気持ちがよかった。なぜ?
 
なぜマクベスは絶望しないのだろう?
この強烈なモチベーションはなんだろう?
 
夫人と始めたこと、そのことに対する己の責任。
互いに良かれと思って始めたこと、決死の覚悟、しかしそれは大罪。
夫人は、狂気と死によって償った。
では、マクベスは?
夫人と誓ったこと、悪、それを最後まで成し遂げる、たとえ大罪を犯した報いが怒涛のように押し寄せようとも。
たぶんそれは、夫人への愛の証。熱烈な愛。
 
マクベスマクベス夫人。
夫人は名前をもっていない。
マクベスと一心同体なのだ、きっと。
熱烈で強烈な男女の結びつき。やったことは悪いけど、その関係は羨ましい。
「いいはわるいで、わるいはいい。」か。